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宮崎地方裁判所都城支部 昭和28年(ワ)7号 判決

原告 永井俊雄 外一名

被告 宮崎運輸株式会社 外一名

主文

被告らは連帯して原告らに対し金拾九万円を支払わなければならない。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

原告らのその余の請求はこれを棄却する。

この判決は仮りに執行することができる。

事  実〈省略〉

理由

原告主張の日時場所において永井七八郎が貨物自動車にひき殺された事実のあることは当事者間に争がない。

被告らにおいて成立を認める甲第二ないし第五号証、被告園田実稔において成立を認める甲第九、第一〇号証および証人中山実の供述によると、原告らの二男永井匡人(当時十五歳)は昭和二十七年七月三十日午後七時三十分ごろ、四男永井七八郎(当時九歳)を自転車のサドル前に同乗させて、都城市岳之下の竜泉寺坂を岳之下橋方面から坂上に向つて左側を進行していたが、訴外中山実が被告会社の貨物自動車宮第五、三五四号を運転して同市鷹尾町方面から右の坂を下方に向け進行して来たので、永井匡人はさらに左方に避けようとして幅約一尺四寸の帯状にまいてある砂利に乗り入れたため、ハンドルが横振れして同乗していた永井七八郎は自転車から落ちて右貨物自動車にひかれ、後頭骨粉砕、脳ずい挫滅等により即死したことを認めることができる。

そこでまず、右事故は中山実の過失によるものであるかどうかについて考察する。前掲の証拠によると、現場は道路幅員十米三十糎であるが、下り坂であつてカーブになつており、しかも永井匡人の進路の左側には幅約一尺四寸の帯状に砂利がまいてあつて、中山実は前方四十六米の地点に永井匡人、同七八郎が自転車に同乗して左側を上つて来るのを認めているから、このような場合自動車を運転する者は、子供らが砂利に乗り入れて動揺のためいつ倒れないとも限らないのであるから、いつでも停車できるように速度をゆるめ、自転車との間に充分余裕をおいて進行し、且子供等の行動を注意して事故を未然に防がねばならないのに、中山実はこれらの注意を怠り時速二十キロ位で進行し、間隔も僅か一米位しかおいてなかつたので、子供らが自動車を避けようとして砂利に乗入れ、ハンドルを横振りするのを認めて直ちに急停車したが間に合わず、自動車の後車輪で自転車もろとも倒れた永井七八郎の頭部をひいて同人を即死させたものであるから、本件事故は中山実の過失によるものと認める。次に中山実と被告会社、被告園田実稔との関係について考察する。被告本人園田実稔(二回)の供述、これにより成立を認むる甲第六号証(看板の写真)公文書であることにより成立を認むる甲第八号証(自動車所有証明書)および証人緒方竹次、同中山実の各供述によると、被告会社は貨物自動車による物品運送の事業を営むものであること、被告会社は被告園田実稔に都城市広口の同会社小荷物取扱所を担当させていたこと、被告会社は被告園田実稔方店頭に「宮崎運輸株式会社小荷物取扱所」「都城広口集荷所」と標示した二個の看板を掲げさせ、ボデーに宮崎運輸株式会社と標示した本件貨物自動車を配車していたこと、被告会社は被告園田実稔に対しその収入の二割を歩合として与えていたこと、をそれぞれ認めることができる。被告園田実稔は、被告会社と契約したものは子の園田馨であると主張し、又被告本人として、自分は会社の社員でも使用人でもない、自分は被告会社から頼まれてしているものである、自分は園田馨の被用者であると供述するけれども、右の主張と本人供述にはくいちがいがあるばかりでなく、同供述によれば前記貨物自動車の税金は被告会社において納めており、被告園田実稔は営業に関する税金を納めていないこと、園田馨は当時二十歳位であり、同人は当時神経衰弱で重富精神病院に入院していたことなどが認められるから、条理からも右の主張や供述は信ずることができない。

以上の事実を考え合せると、被告会社は貨物自動車による物品運送の事業を営むものであつて、その事業のため中山実を使用する者であり、被告園田実稔は被告会社に代つて中山実を選任監督するものであるということができる。

次に前記事故は中山実が被告会社の事業を執行するについて生じたものであるかどうかについて考察する。証人中山実、被告本人園田実稔の供述によると、被告園田実稔は被告会社の物品運送の集荷、配達を行うものであつて、会社の仕事の外にもたまには個人からの依頼を受けることもあるが、それは内職程度の判然区別できるものである、本件事故は被告会社が川崎肥料店から依頼されて市内鷹尾町まで肥料を運搬し前記小荷物取扱所に帰る途中に生じたものであつて、被告会社の仕事であつたことを認めることができる。それで本件事故は被用者たる中山実が被告会社の事業を執行するについて生じたものである。

そうすると、被告会社は中山実の使用者として、被告園田実稔は中山実の事業の監督者として、いずれも永井七八郎の父毋である原告らに対し七八郎の死亡による精神上の苦痛を慰藉する責任があるものといわなければならない。

それで慰藉料の数額について考察すると、成立に争のない甲第九号証によれば、原告らの家庭は、原告夫婦の外、長男利寛(二十一歳)二男匡人(十九歳)三男亮三郎(十四歳)四男七八郎(昭和十八年七月三十日生)および原告永井俊雄の毋トミ(六十五歳)の七人暮しであつたが、本件事故により四男七八郎を誕生日に喪つたもの、被告会社は前記甲第七、第八号証によれば、宮崎市東二葉町において、宅地五二六坪四一(この評価格一、九四五、八六〇円)、家屋二棟建坪三〇三坪三九(この評価格一、五九三、九九八円)、貨物自動車二三輛、三輪車一〇輛を所有して物品運送業を営んでいるもの、被告園田実稔は、同被告本人の供述によれば、家屋を所有して被告会社の広口集荷所の業務を担当しているものであることをそれぞれ認めることができる。以上認定した本件事故の情況、過失の程度、家族資産状態と被告本人園田実稔の供述、これにより成立を認める甲第一号証の一、二により認めうる被告会社が原告らに対し見舞金一万円、香典五千円および花輪を贈つたこと、その他諸般の事情を考え合せ原告らは被告らから慰藉料として金十九万円の支払を受けてその精神上の苦痛を慰藉しうるものとする。

それで原告の請求は右の範囲内において相当と認めその余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 井上藤市)

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